この前書いた,「エレガント」を読んで下さった皆様は,私があごヒゲを伸ばしている事をご存知かと思います.あごヒゲってのは,人にもよりますが,若者と,壮年の男性が伸ばしている場合はそれほど問題ないんですが,私みたいな中途半端な年代の男性が伸ばしていると,だらしないとか,カタギじゃないとか,そういう風に思われちゃうことがあるんですね.ワイフの家に行くときは剃らなきゃいけない,みたいなね.まぁあんまり良い顔されません.
なのになぜ私はあごヒゲを伸ばしているのか.それは,あごヒゲを切らない,もしくは剃らないからではない.切れないし,剃れないからなのだ.彼の中の日本が,彼をしてあごヒゲを伸ばさせているのだ.なぜなら…

私は結構ヒゲが濃くてですね.一週間も放置すると,インドの苦行者もかくや,という風貌になるんです.これは言い過ぎましたけども.
でまぁ,割と濃いんですけど,その割に,例えばモミアゲとヒゲが繋がらなくて,鼻の下のヒゲとあごヒゲも繋がらない.ダンディズム方面に進むこともままならない,中途半端な感じなんです.
さらに,あごの辺りの皮膚が弱くて,稠密に生えているヒゲをじょりじょり剃ると,すごい剃刀負けするんですよ.日本で毎日スーツ着て仕事してた時は,当然毎日ヒゲ剃らなければならなかったので,それはそれは辛い日々を送っていました.

で,今はネパールに居るので,なんとなくそんなにヒゲ剃んなくても良いかな,と思ってですね.剃刀負けするあご以外だけ剃って,快適な日々を過ごしていたんです.

学生時代など,日本であごヒゲを伸ばしていた時は,それでも定期的にバリカンで長さを揃えたりしてたんですけど,バリカンをネパールに持ってくるのをすっかり忘れましてね.それだけ切ってもらうためにまた恐怖の床屋体験をするのも嫌なので,とりあえず当座は伸びるに任せていたんですよ.レストランのウェイターの若者にも「イッツクール!」とか言われたしな,って.あんまり長くなったら櫛とハサミ買って来て自分で切るかなー,とか思いながら.

そんな日々を過ごしていると,ある日を境に,やけに自分のあごヒゲがそこら辺の人々の注目を集めていることに気付きました.適当に話をして,適度に仲良くなると,みんな私のあごヒゲに話を振ってくる.
山の方にルーツを持つグルンなどの民族がモンゴリアンだったりするので,日本人の顔なんて彼らにとってそんなに目新しいもんでもない.話の種に振ってんのかなーとか思ってたんですけど,それにしても異様にあごヒゲに注目されるんですよね.ニヤニヤしながら,さらに「セクシー」とか言いながら触ってきたりするの.ネパールの人的には普通のスキンシップなんでしょうけど,そういうことされると生粋の日本人の私は微妙に引いたりもするんですが,とりあえず,なんだよ,みんな俺のあごヒゲにメロメロじゃねぇか.参ったなーとか思ってたある日,

「ボケダーリ!」

一人の少年が私の目の前で声を上げました.なんだなんだと思うのですが,どうやら私に向かって満面の笑み.その少年は,ノートの切れ端に英語で,「私たちはサッカーがしたいけどボールが買えません.ボール一個分のお金,1500ルピー(2700円くらい)を集めています.援助して下さい」って書いてあるのを道行く観光客に見せて,用途不明のお金を集めている類の少年でした.
サッカーボールは分かったけどボケダーリってなんだよ.ことと次第によっちゃあすごい事してやる,とか話しかけるんですけど,自分で話さず誰かに書いてもらったのであろうノートの切れっぱしでコミュニケーションを図るくらいなので,今いち埒があきません.その場は50ルピー(90円くらい)あげて不審を抱えたまま別れるしかありませんでした.ちなみに,数分後にまたそいつらの前を通りかかったら,「別のチームだ」とか言って同じ紙を見せられました.

ボケダーリってなんだろう…

最初は挨拶の類の言葉なのかと思ったんですけど,ネパール語の挨拶って,時間や状況を問わず「ナマステ」とか「ナマスカール」(丁寧な言い方)って言うのが一般的みたいなので,とりあえず普通の挨拶ではないぽい.
しかも,ボケって日本語でボケじゃないですか.ダーリってダール(豆のスープ)に似てるけど,なんとなく日本語で「ダルい」を連想させるじゃないですか.「だりー」って.

あいつボケてる上にダルそうな日本人だから,この前日本人旅行者に習った「ボケ」と「ダルい」を組み合わせて呼んでやれ,とか思われたんじゃ!って,そわそわとしてました.
だって,「ボケ」と「ダルい」って微妙に習いそうじゃないですか.「ボケ」は,日本語でStupidってなんて言うんだ,とか聞かれたら,聞かれた日本人の出身地によっては「ボケだよ」って言いそうだし,「お前具合悪そうだけどどうしたんだよ」,「ああ,ちょっと風邪気味でダルいんだ」みたいな文脈で「ダルい」も習いそう.

つうか「ダルい」だったらダールの方が似てるし,最近長い文を書くのに疲れてきたので,さっさと結論を言いますと,まぁ,「ボケダーリ」ってのは,ネパール語で「山羊ヒゲ」を意味するんですね.ネパールでは山羊を始終ボケ呼ばわりしているわけです.
さらに,最近ネパールのテレビで,山羊ヒゲ生やした探偵みたいのが出てくる番組がはじまっただかやってるだかしてるらしくて,山羊ヒゲ弄りながら推理とかしてるみたいなんです.いつやってるか聞いたんですけど忘れたので,私はまだ未確認なんですが,探偵の助手が踊りながら「助けてボケダ~リ~」とか歌うと,山羊ヒゲ弄りながらボケダーリ探偵登場,みたいな奮った定番の登場シーンが人気の模様.

なるほど.それでみんな私のあごヒゲにやたらとくいつくのかー.とか思ってたら,この前仕事でネパールの人と話してて,重要な話も終わって雑談してたら,

「君にはスペシャルネームがある」

とか言われましてね.皆様の予想通り,ポカラのレイクサイドという地域の一部で私のあだ名が「ボケダーリ」で定着してるらしいんですよ.「おお!そういえば前もこわっぱにボケダーリって呼ばれた!」とか言うと,キャッキャキャッキャと喜ぶネパールの人々.
この感覚って,例えば私がこの前床屋であった明神(仮名)に,あんたは元サッカー日本代表のボランチに似ているって言って,「おお!前も言われた!」とか言われたら私もキャッキャキャッキャ喜ぶので,気持ちは分かる.でも,ボケダーリの音の感じや,その意味を知った今,山羊ヒゲ探偵が,助手の変な歌と踊りとともに登場して山羊ヒゲ弄りまくる変な探偵と知った今,微妙なんですよね.
あれじゃないですか.なんかこう,山羊ヒゲって微妙じゃないですか.どうせなら「カミソリ」とか,そういうあだ名が良いじゃないですか.百歩譲って,山羊ヒゲは良いとしても,助手の歌と踊りとともに登場して山羊ヒゲ弄りまくる探偵って間違いなく微妙じゃないですか.

彼らが私を「ボケダーリ」と呼ぶ時,彼らの頭の中にはもれなく山羊ヒゲ探偵が浮かんでいると推測されます.あいつらのニヤニヤの理由はそれだったんだ.別にウホッ!とかなってたわけではないのだな.半ば怒り,半ば安心といった微妙な気分.

で,あごヒゲって,伸びてくると邪魔なんですよね.具体的には,顔洗った時に,あごヒゲにだけ泡とか水が残って,しかも位置的に微妙に洗い落しづらくて,服が濡れる.さらに具体的には,歯磨き粉を大量に使いすぎて口から泡がこぼれた時,泡とかがヒゲについて,しかも位置的に微妙に洗い落しづらくて,服が濡れる.とにかく服が濡れる.だからもう,剃らないまでも切っちゃいたいんですよね.

でも,「お前のあごヒゲはクールだ!」とか,「ボケダーリがあだ名だ!」とかなってる中,ある日普通にあごヒゲが短くなったり,剃ってなくなってる状態で皆の前に大登場って感じ悪いじゃないですか.「ああ…あのあだ名気に入らなかったのかな…」とかきっとなるじゃないですか.明神明神って喜んで呼んでたら,ある日突然「俺は明神じゃない!」って言われるくらいショッキングじゃないですか.出来ない.私にはあごヒゲを切ったり剃ったり出来ない.

どうやら人の和を重んじる古き良き日本人の性格を今なお残す私.すなわち,私の中の日本が,彼をしてあごヒゲを伸ばさせているのです.

あごヒゲ弄りながら証明終わり.日本に帰る辺りがチャンスだと思ってる.
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