エベレストの国で髪を切った話の後編です.ネパールの床屋ですごい男前に,「短く,お任せで」と言い放った私のその後や如何に.
さて,男前に注文したのはいいんですけど,若造ぽかーんとしちゃいましてね.もうどうしたら良いか分からないみたいなんですよね.はぁ?みたいな顔した後,「これか?これか?」って例のリーゼントサンプルとか指差しやがるんですよね.なんでやねんなんでリーゼントやねん.ここで頷いたら私はリーゼントにされる.メッシュも入れられる.カットだって言ってんのになんでリーゼントになるんだよ,って私怖くなっちゃいまして,

「横は2,3cmくらいで,上は3,4cmくらいにしてください」

と再注文.これはもう仕方ありませんよ.そうに違いない.むしろ私のほうが向こうのレベルに合わせてあげた感さえある.日本国内で幾多の試練を乗り越えてきた私だから見せられる即応性ですよ.この,物事に必要以上にこだわらない豪放磊落さ,そして優しさが余裕の現れ.すごい.流石だ.リーゼント嫌だ.

周りの他のスタッフからもネパール語で色々助言をもらったらしく,やっと切り始める若造.やっと前に進んだか,と安堵する暇もなく,痛みに声が出そうになります.ハサミを研ぐとかしないんでしょうね.錆が浮いたままのハサミで力づくで髪を切り進めていくので,その度に髪が引っ張られてすごい痛い.でも,ここで「いてーよハゲ」とか言っても中途半端に切られた髪型のままなんやかやと面倒なことが起きそうなので,我慢.すきばさみとかもう髪を挟んでるだけじゃねーのかと思うんですけど,これも我慢.仕方あるまい.世界の山を制するには困難があるであろうことは覚悟していたはずだ.

で,まぁ予想通りの結果で,皆さんも大体察しがついてると思うんですけど,毛先から横を2,3cm,上を3,4cm切って,「どうだ?」とか言い出す若造.これは想定範囲内でした.日本でもたまにこういうことがあったので,にこやかに根元からだよ,って伝えます.そしたらまた困惑する若造.ジェスチャーで,根元からだ,って伝えるんですけど,こいつ何言ってんだ,変な客来ちゃったよ,みたいな表情.ちょっとこっちが変なこと言ってんのかと不安になってきましたからね.
こういう不安感ってのは伝染するもので,若造もどうして良いか分からなくなったのか,またリーゼントのサンプルを指差しだしたりします.お前はどれだけリーゼントが好きなんだ.お願いだからリーゼントのことは忘れてくれ.

すると,先ほどからこちらをニヤニヤ見ていた,隣の席で髪を切っていた客が,風貌から髪型から元日本代表の明神にそっくりだったんで心の中で明神と呼んでたんですけど,「短くしたいんだろう?」って言ってきましてね.おお,我が意を得たり,と「イエスイエス」と勢い良く頷きます.そしたら「俺みたいにしたいんだろう」とか言い出して,それはちょっと,と思ったんですけれど,この際短くなりゃなんでも良いやと,「イエスイエス」.

なんだ,お前は短くしたかったのか,とか苦笑いで話しかけてくる若造を,もう,5cm単位で切り刻んで湖の魚の餌にしてやりたくなった一幕もありつつ,また散髪が再開します.

そしたらね,もうどうなってんだと思うしかないんですが,またちょろっと長さを揃えたくらいで,「どうだ」とか鏡持ってきやがるんですよ.なにがどうなってんだか分からない.なぜだなぜなんだ.
もしかしたら,彼の目利きでは私は髪を短くしない方が良くて,どうにかして阻止しようとしてるのかもしれない,などと思いながら,もうこれで良いかな…,と半ば悟りの境地に.

すると,自分に憧れて自分と同じ髪型にしたがっていた奴がその思いを遂げられないでいる!って思ったんでしょうか.明神がエキサイト.アホか!こいつは俺と同じ髪型にしたいんだよ!みたいなことをネパール語で言い募りまして.私の意思とか関係ない所で状況が動きだします.若造はもう半ギレで,親の仇とばかりに私の髪を切り刻みだし,その横では明神が自分の散髪は終わったのに,するどい目つきで監視.

こういうのって,すごい居心地悪いんですよね.安いからっつってヘアサロンで練習台になると,若手が髪を切る横で店長みたいな人が無言でそれをみてたりするじゃないですか.あの居心地の悪さ.切っている方の緊張がこっちに伝わって来てすごい肩が凝ってくる,あの居心地の悪さ.パーマの時も来て欲しいと言われるも,思わず「私すごい直毛でパーマかかんないんですよ」とか言ってしまうあれ.
さらに,居心地の悪さは一緒なんですけど,こっちで見ているのはただの明神であって店長でもなんでもないので,若造が思うさま私の髪に憎しみをぶつけてくるんですよね.こいつがこなければこんなことには!っていう彼の憎しみが髪を通じて私に伝わってくる.というか,物理的に伝わってきて痛い.
それでもなんとか私の髪も明神に近いものになってきまして,「どうだ?」と聞いてくる若造に,なにはなくとも早く終わって欲しい私は爽やかな笑顔で「グッド」とか言います.
やった,やっと帰れる!と思うと,これまた錆の浮いた剃刀を取り出す若造.髪の生え際をジョリジョリ剃り始めます.これがさっきまでの痛みが愛おしく思える程に痛い.これも研いでないんでしょうね.切れ味が悪いからすごい勢いで押し付けて来て,剃刀の角度も皮膚をはがそうとしてるんじゃないかと思う程に鋭くなってきます.一言怖い.普通に耳の上切られましたしね.無言で謎の粉をふって誤摩化す若造に文句を言う気力もありませんでした.

無限に続くかと思われた悪夢のようなシェービングもやっと終わり,今度こそ帰れる!と思うと若造が今度は肩をすごい勢いで揉んできます.これがまた痛い.

なんなんだ.ここに入って来てから,入れ替わり立ち替わり痛みばかりが私を襲う.私が何をしたって言うんだ.私は髪が切りたかっただけなのに.日本は制した,世界の山を制するぜとか調子に乗って考えた私への罰か.その報いなのか.

そんな事を考えながら,ただひたすらに痛みに耐える私.ここを,ここさえ乗り越えれば帰れる.これだけだ,とか思っていると,なぜか若造が私のTシャツをめくりあげます.さらになんかよく分からんオイルを塗りたくり始める.
これは,よく分かってない意思の弱そうな外国人旅行者に勝手に色んなサービスを施して,最後に,散髪だけなら50ルピーですけど,マッサージもしたので,とか言って,合計400ルピー請求,みたいなのの典型.もしかしたらこの先異国の地で髪を切るかもしれない皆様におきましては,強い意思で断っていただきたい類の所業です.
でも,このときの私はもう満身創痍で,なんでもいいから早く終わって下さいと思うのみ.されるがままにオイルを塗りたくられてました.どうせこの時200ルピーくらいしか持ってませんでしたしね.

で,最終的に案の定マッサージ代も含めて請求され,これで良いもんでも食えとばかりにちょっと大目に払って出てきました.時間にして1時間程だったんですけど,こんなに長い1時間も私の人生でそうなかった.
そんな散髪を終えた後の私の髪型は,

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こんな感じ.嫁を探して旅をするバーバパパを思わせる耳周りの曲線が見事ですね.剃刀で赤くなった肌が痛々しい.鏡を見たら,日に焼けたこともあって漁師みたいになってました.

日本ではもの足りん,世界の散髪という名の山を制する!とか言ってたら,海のないネパールで漁師に.目的と結果のあまりの齟齬に愕然とするしかないのですが,よく考えてみるとそんなギャップが逆にエレガントかもしれない.そんなわけない.
なにはともあれ,皆さんもネパールに来ることがありましたら,是非一度お試し下さい.きっと異国を肌で感じることが出来ますよ
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